高齢者のもの忘れは、脳の老化による記憶力の低下であり、病気ではありません。一方認知症は病気であり、早期に適切な治療を開始しないと症状が更に進んでいきます。もの忘れと認知症の初期症状は似ているため、判断に困ることが少なくありません。以下に、もの忘れと認知症の違いについてまとめていますが、判断に迷った場合は専門医に相談しましょう。
加齢によるもの忘れの場合、記憶の帯はつながっており、何らかのヒントを与えると体験など記憶を呼び戻すことができますが、認知症の場合は、記憶の帯がすっぽり抜け落ちるため、体験したことそのものを忘れてしまいます。
加齢によるもの忘れ |
認知症 |
|
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原因 |
加齢によるもの |
脳の病気 |
記憶 |
体験したことの一部を忘れる |
体験全体を忘れる |
見当識 |
時間や場所など見当がつく |
時間や場所などの見当がつかない |
進行性 |
すぐには進行しない |
進行する |
もの忘れの自覚 |
もの忘れを自覚している |
もの忘れに対する自覚が乏しい |
日常生活への支障 |
特に支障はない |
日常生活に支障がある |
他の精神症状 |
他の精神症状は伴わない |
他の精神症状を伴うことが多い |
A. 多彩な認知欠損の発現が次の2つにより明らかとなる
1)記憶障害(新しい情報を学習したり、以前学習した情報を想起する能力の障害)
2)以下の認知機能障害の1つ以上
a) 失語(言語の障害)
b) 失行(運動機能が損なわれていないにもかかわらず動作を遂行することができない)
c) 失認(感覚機能が損なわれていないにもかかわらず対象を認識または同定できない)
d) 実行機能(計画を立てる、組織化する、順序だてる、抽象化する)の障害
B. 基準A. 1)およびA. 2)の認知欠損は、その各々が、社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準からの著しい低下を示す
C. その欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない
D. その障害は他の第1軸の疾患(例えば統合失調症や大うつ病性障害)でうまく説明されない
認知症の原因としてはアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症が多いとされますが、様々な疾患が認知症の原因になります。認知症症状を呈する疾患の中には、正しく診断して治療すれば、症状が改善(軽減)するものもあります(Treatable Dementia)。そのためには、早期に鑑別診断などの診断を行って治療していくことが大切です。判断に迷った場合は、専門医療機関を受診しましょう。
認知症の主な原因疾患
(1)脳血管障害
脳出血、脳梗塞など
(2)神経変性疾患
① アルツハイマー型認知症
② 非アルツハイマー型認知症 レビー小体型認知症、ピック病、神経原線維変化型老年認知症、嗜銀顆粒性認知症、運動ニューロン疾患に伴う認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ハンチントン病など
(3)その他の原因疾患
① 内分泌・代謝中毒性疾患 甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症、ビタミンB12欠乏、ビタミンB1欠乏、ペラグラ、脳リピドーシス、ミトコンドリア脳筋症、肝性脳症、肺性脳症、透析脳症、低酸素症、低血糖症、アルコール脳症、薬物中毒など
② 感染性疾患 クロイツフェルト・ヤコブ病、亜急性硬化性全脳炎、進行性多巣性白質脳症、各種脳炎・髄膜炎、脳腫瘍、脳寄生虫、進行麻痺など
③ 腫瘍性疾患 脳腫瘍(原発性、続発性)、髄膜癌腫症など
④ 外傷性疾患 慢性硬膜下血腫、頭部外傷後後遺症など
⑤ その他 正常圧水頭症、多発性硬化症、神経ベーチェット、サルコイドーシス、シェーングレン症候群など
老年期痴呆診療マニュアル第2版:日本医師会編長谷川和夫監修(南江堂)より一部改変